治験エコシステムとは

まず、「治験エコシステム」という言葉がいまいち、共通認識が取れていないのが、2025年現在の状況ではないでしょうか。PMDAの治験エコシステム導入推進事業(000274714.pdf)のスライドの言葉を引用すると、以下の通りになっています。
「治験エコシステムとは、国内治験を効率的に実施し、国民にいち早く治療薬を届けるため、製薬企業、医療機関、規制当局、被験者等あらゆるステークホルダーが協力して効率的に治験を行うための仕組み」
2025年時点で、昨今は医薬品開発の複雑性が増している中で、いかに効率的に行うか、その中で「治験エコシステム」という概念が注目を集めていると思います。この「治験エコシステム」言葉は、日本における医薬品開発プロセスの円滑化を目指しているさまざまなステークホルダーが、お互いに「エコステム」のように関わり合いながら、どのように統合されているかということがポイントになってくると思います。
2024年度に治験エコシステム導入推進事業で、事業実施機関(大阪大学、北海道大学、国立がん研究センター)に依頼した内容は以下の通りです。
- 国内治験全体の課題(費用削減に貢献できる課題、症例集積性向上に寄与する課題、治験の効率化及び時間短縮に寄与する課題)の具体的な洗い出し
- 中央IRBの活用促進
- IRB審議事項の整理
- 資料の統一と電子化
- 医療機関が考える課題
2025年3月24日の令和6年度治験エコシステム導入推進事業成果報告会では、これらの課題に対する治験実施医療機関から上がった意見を集約して、「こんな課題があるのではないか?」ということを報告した格好になったのだと思います。
それを踏まえて、事業実施機関を募って、2025年度も令和7年度治験エコシステム導入推進事業ということで、以下の課題の洗い出しをするようです。
- 治験の質に関する課題
- 制度運用(GCP省令)に関する課題
- 様式統一に関する課題
2025年度は、事業実施医療機関だけではなく、関連医療機関、製薬企業団体等と課題を検討するようで、例えば、制度運用(GCP省令)に関する課題では、「IRBにおいて標準化するべき手順等」といった「こういう風にしていきましょう」の提案を最終化することを目指しているとのことでした。
目指す方向性

「治験エコシステム導入推進事業」では、課題の洗い出しとか、こういうことをやっていきましょう!といった検討に留まっている感は否めないので、結局、製薬企業や治験実施医療機関、IRBはどのような方向を目指せばいいのでしょうか。令和6年度治験エコシステム導入推進事業成果報告会では、「治験エコシステム導入推進事業は、国内治験数が増加するよう、国内治験のコスト削減、手続きの負担解消を目指す事業です。」と謳っていました。
つまり、「コスト削減や治験の効率化」につながる施策がこれから行われていくことを予測していけば良いと理解しています。それらを考えると、よく出てくるワードで取り掛かることが出来るのは以下のような内容になると思います。
- 中央IRBの利用促進
- 治験手続きに係る様式の統一
- FMVの導入
- その他、治験の質に関する課題で上がった施策
この部分について2026年のGCP改正に何らかの影響があると考えて行動するのが良いと思います。その他のところがどうなるかも気になるとところです。
考えなければならないこと

- 製薬企業目線
- 中央IRBだけになった場合に、これまでの個別IRBで取っていたプロセスから変更すること
- 個別IRBで使っていた、いわゆる「依頼者版」「施設版」の区別がなくなるのではないか
- 中央IRBを使うことで効率化できる部分(資料準備など)と、できない部分(治験実施医療機関のタイムラインが間に合わない)があるのではないか
- 医療機関目線
- 自施設のIRBのプロセスと中央IRBのプロセスの2つを用意しないといけないのか
- 中央IRBに集約されていく中で、自施設のIRBをどのように維持していけばいいのか/維持しない場合はどのようにリタイアしていくか
- 中央IRBに委託できない治験実施医療機関の場合は、製薬企業から選ばれないことになるのか
- IRB目線
- IRBとして信頼性をどのように担保するか(第3者認証、監査など)
- IRBの収益性の維持
- 選ばれるIRBになるために必要なことは何か(専門性、開催頻度など)
などなど色々考えられますが、日本全体の検討状況によって考えなければならないことは変わってくると思います。個別の目線で考えをまとめた内容は別記事で深堀りをしていきたいと思います。
コメント